017

 

  北の駅          作詞 日下 晴久  

 

 
 

 

 私が日本海に面した寂しい北の駅に降り立ったのは2年前の春のことでした、国道の拡幅工事の現場へ転勤してきたのです、それからの日々は現場の主任技術者として頑張って生活していました、しばらく経った頃現場事務所の賄いをしてくれる「おばさん」が近所の娘さんを紹介してくれて交際が始まりました。
 親一人子一人の生活で病弱な父親の看病しながら役場へ勤めている娘さんでした、気立ての優しい可愛らしい彼女でした、たまの休日には私の車で遠くまでドライブに行く様な関係になりました。
 翌年の二月の寒い日、突然に本社から岡山でトンネル工事を受注したので、即日、現場所長として着任するよう辞令がが届きました、ここの現場の所長にそのを旨連絡し今までお世話に成ったお礼を言って、それから彼女を訪ねました「岡山へ一緒に行かないか」と誘いましたが、「父親を捨ててはどうしても一緒に行けない」と泣きながら断られました、その夜出発する私を駅まで彼女は見送りに来てくれました、未だ雪の残る寂しいホームから汽車で出て行く私を雪の中走りながら追ってくる彼女を見た時には私は涙を止める事が出来ませんでした。
 岡山の現場へ転出してから一年ほどは彼女から電話連絡もあり、また現場へも時々遊びに来ることがありました、その後父親が急死したとの連絡でお悔やみを言ったその後音信が途絶えてしまいました、約2年の工期ででトンネル工事も終わり、余裕が出来たのでどうしても彼女と一度逢いたくて未だ春浅い北陸路を訪ねて北の街へやって来ましたが、彼女が住んでいた家はなく更地に成ってフェンスで囲まれていました、唯一軒だけの駅前のスーパーで買い物客を待っていると、懐かしい彼女が子供を背負って買い物に来たのを隠れて眺め私はすべてを理解することが出来ました、幸せそうな彼女の気持ちを察して私は会わずにこの北の街を去ろうと決心しました、私の心は北風に泣いています。 「北の駅発最終便」でふるさとへ向かいました。 車中短かったけど幸せだった彼女との思い出を詩に書いて見ました。

 

 
 

 

 

  1,  次の現場に発つ夜は

     粉雪舞い散る北の駅

     凍えた小さな君の手を

     両手で強く握りしめ

     元気で暮らせと言えただけ

 

 

  2,  無情に響くベルの音

     動き始めたデッキの俺を

     雪のホームで追ってくる

     帰って来てと叫ぶ声

     夜のしじまに消えていく

 

 

  3,  工事を終えて降りた駅

     音信途絶えた北の街

     背なにヤヤ負う君の影

     幸せそうに笑ってる

     俺は隠れて立ち尽くす

 

 

  4,  コートの襟立て駅に立つ

     心吹き抜く冬の風

     君の幸せ願いつつ

     残る面影消すために

     一人静かに旅に出る

 

 

 

 
     

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

018

 

  別れのあと           作詞 日下 晴久  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1,  祭り太鼓の聞こえる季節

     足掛け二年の工事も終えた

     生まれ故郷へ明日は帰る

     聴いてたお前は何にも言わず

     俺から離れて肩震わせた

 

 

  2,  俺を見つめる大きな瞳

     宿る涙が目尻に光る

     むせび泣くのか可愛いお前

     思わず駆け寄り肩抱き寄せた

     女の香りが心を揺する

 

 

  3,  一人娘のさだめが悲し

     母親残して連れては行けぬ

     うちはアンタが死ぬ程好きや

     一人にしないで帰らんといて

     叫んだお前のその目が悲し

 

 

  4,  お前に黙って一人で発った

     ボストンバック一つを下げた

     やつれた顔のお前が一人

     親と別れて後追い掛けて

     一緒に暮らすとやって来た

 

 

 

 
     

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

019

 

  ちいママ            作詞 日下 晴久  

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

  1,  店のお客が押しかけた

     僕はちいママ守るため

     力の限り戦った蹴られ

     殴られ傷負い倒れ

     寝ずの看病で傷癒えた

     二人の絆は深まった

     夜遅く酔ってつぶれた

     ちいママ背負い部屋に入る

     やつとベツトに寝かせつけ

     涙の寝顔を眺めてた

     幼い自分が切なくて

     何時も心が泣いていた

 

 

  2,  優しい愛が欲しいから

     貴女の卒業待っている

     私の我が儘聞いてよと

     ちいママ真顔で話してた

     僕は頷き卒業までは

     綺麗な二人で頑張って

     世間に隠れて暮らそうと

     指を絡めて誓い合う

     愛は深まり頼り合う

     夜の仕事が気に掛かり

     店を覗ていちいママ眺め

     胸が切なく心が痛む

 

 

  3,  家に帰ると置き手紙

     何処に居るの呼び掛ける

     部屋を吹き抜く夜の風邪

     不安に想い手紙を読めば

     必ず似合いの子が居るわ

     貴男の幸せ願いつつ

     一人で旅に出て行くからと

     涙滲ませ書かれてた

     好きな人が出来たのか

     余りに私が幼いからか

     二人で誓った約束何処へ

     帰って来てと祈るだけ

 

 

 
     

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

020

 

  祖谷の恋唄             作詞 日下 晴久    

 

 

 

 

 

 

 私の親友の赤沢君が一枚のMDを持って尋ねて来ました、そのMDに入っているメロディーに詩を付けて欲しいとの事です、楽譜があると詩を付けるにしてもやりやすいのですが音だけとの事なので、MDを聴くとカラオケが入っていましたそれを何度か聞いているうちに私が作詞した「忘れじ祖谷」に少し詩を書き足せば何とかなるように想い、それをベースにして作詞し直しました。

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1,  覚えていますか私の事を

     橋の袂で別れた二人

     遠く離れて悲しさ隠し

     一人でひっそり生きてきた

     思い出すのは貴男の笑顔

     霧にかすんだカズラ橋

 

 

  2,  都で過ごした5年を捨てて

     心弾ます祖谷への旅路

     今も一人で居るのでしょうか

     昔の貴男で居て欲しい

     忘れたはずの貴男の胸で

     強く抱かれて眠りたい

 

 

  3,  希望の明日へ貴男のために

     生まれ変われる私なの

     祖谷の自然に囲まれて

     二人で仲良く暮らしたい

     祖谷のいで湯聴く歌は

     愛しい貴男の木挽唄

        

 

 

 

   
       
       

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

021

 

  よく聴けよ          作詞 日下 晴久  

 

 

 

 

 人里離れた山奥の道路工事に伴う24時間連続の環境騒音測定に行った、朝早い午前5時頃測定場所の直ぐ近くの家から急に大声で夫婦喧嘩が始まった、その音が騒音計に入ってしまうので注意に行こうとした時、家から犬を連れた70歳後半くらいの男の人が現れた。
 測定中の事情を説明すると頭を掻き乍ら「悪い悪い」と平身低頭して了解してくれました、一時間程して犬の運動から帰ってきた男の人が私の所へ寄って来ました、以前は大きな企業の部長していたとの事ですが、定年で退職し、徳島の山奥へ帰って来たそうです、男の人は誰に聴かすでも無く、一人で喋り始めました「戦前は国や家族を守るため命を懸けて外地で戦って来た、戦争が終わると企業に入り家族の為に必死で全国各地を単身で転勤し、山の上の不便な家からこの土地を買って家を新築し、子供は全て大学まで行かせ教育を付けてきた」。
 ところが定年で退職すると、まるで車で例えるならばポンコツ廃車の様に誰もが相手をしなくなり、先ほども親子で私をバカ扱いするから喧嘩になってしまったのだと寂しげに言いました、何だか人ごとでは無い感じで後ろ姿に哀愁を漂わせて去っていく男の人に共感する処が有り、測定車輌の中に入って男の人に成り代わり心からの思いを詩に書いてみました。

 

 

 

 

 

 

 

 

  1,   会社勤めも定年迎へ


     今日も朝から庭掃除


     訪ねる友も次第に減って


     新聞読んでテレビを眺め


     悩みも無しに一日暮れた

 

 

 

 

  2,  妻との会話も少なくなって


     人とも話さず呆然自失


     これでは家庭の粗大ゴミ


     体の置き場も狭くなり


     子犬をお供に散歩する

 

 

 

 

  3,  俺は日本を背負って生きた


     妻や家族を守って来たぞ


     決して年寄りバカにはするな


     妻よお前も越える道


     息子もやがては進む道